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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和50年(ネ)188号 判決 1980年1月16日

控訴人

右代表者法務大臣

倉石忠雄

右指定代理人

岸本隆男

外九名

被控訴人

渡辺晃規

外四名

右被控訴人ら訴訟代理人

吉田耕三

主文

控訴人の被控訴人渡辺晃規、同渡辺俊夫、同渡辺俊江に関する本件控訴を棄却する。

原判決中被控訴人渡辺実、同入江チヨに関する部分を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人渡辺実に対し金五九万四〇〇〇円、被控訴人入江チヨに対し金二二万円、およびこれらに対する昭和四四年一二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人渡辺実、同入江チヨのその余の請求を棄却する。訴訟費用につき、被控訴人渡辺晃規、同渡辺俊夫、同渡辺俊江と控訴人の間に生じた当審訴訟費用は控訴人の負担とし、被控訴人渡辺実、同入江チヨと控訴人の間に生じた訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その三を右被控訴人らの負担、その余を控訴人の負担とする。この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

<証拠>によれば、昭和四四年一二月二一日午前一〇時頃、訴外悟啓の運転する普通乗用自動車が福井県南条郡河野村具合地内の国道八号線を武生方面から敦賀方面に向い進行中、具谷第二トンネル南口の南方約七〇メートルの地点で進路右側のガードレールを乗越えて道路脇の谷川に転落し、その際右車両に同乗していた訴外富久が転落途中車外に放出されて谷川に落ち、頭部を強打して同日死亡したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない(同日右場所付近において訴外悟啓の運転する普通乗用自動車が谷川に転落し、訴外富久が死亡したことは当事者間に争いがない)。

二本件事故発生当時事故現場付近に路面凍結が生じていたことについての当裁判所の判断は、左のとおり削除および付加するほか、原判決理由説示第一の二、三と同一であるからこれを引用する。

原判決二五枚目表三行目から四行目にかけての括弧書部分を削除する。

控訴人は、前記甲第九号証(実況見分調書)中の交通事故現場見取図(1)の路面凍結に関する記載は、同号証の作成者である警察官斉藤正憲が同日本件事故の処理をする前に他の場所で発生した路面凍結に起因する交通事故を三件も処理していたため、本件事故現場の路面状況と他の事故現場の路面状況とを取り違えて記載したものと考えられる旨主張するが、原審および当審(第一、二回)証人斉藤正憲の証言にてらし右主張は採用し難い。

当審証人須藤常雄の証言により本件事故発生の日の翌日である昭和四四年一二月二二日午前一〇時二〇分頃に本件事故現場を撮影した写真であると認められる乙第六号証の一ないし五および右証人の右写真を撮影した当時本件事故現場付近の路面は乾燥していた旨の証言をもつてしては未だ右認定を左右するに足りず、他に右認定を左右し得る的確な証拠はない。

三<証拠>によれば、訴外悟啓は時速約五〇キロメートルで前記道路を進行し具谷第二トンネル南口を出た直後に追越車両が自車の進路前方に進出して来たため危険を感じて急ブレーキを踏んだところ、前認定のとおり路面が凍結していたため車両が滑走して操縦の自由を失い、進路右方のガードレールに衝突したうえこれを乗越えたものであることが認められる。

控訴人は、当審における鑑定の結果を援用して、たとえ路面凍結があつたとしても右認定のような態様の事故が発生することは力学的にあり得ない旨主張し、そのことからさらに進んで本件事故は訴外悟啓の異常な高速運転とハンドル操作の過誤に起因するものである旨推論するが、右鑑定の結果中鑑定事項に示された事故態様は矛盾を包蔵しているとする点は、右結論に至る過程において、事故車両が滑走状態で路面凍結部分から非凍結部分へ移動した場合に生ずる車体運動、特に車体の向きが道路と平行でない場合あるいは凍結部分の末端が一部凍結の状態になつている場合の運動について検討がなされた形跡が認められないことにてらしてにわかに採用できず、従つてこれを主たる論拠とする控訴人の右主張も採用の限りでなく、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

四本件国道の管理体制と本件事故直前における道路管理状況および本件事故は本件国道の設置および管理の瑕疵に起因するものであり、従つて控訴人から被控訴人に対する国家賠償法二条一項に基く損害賠償責任の存在が肯定されることについての当裁判所の判断は、左のとおり訂正、付加するほか、原判決理由説示第三の一、二と同一であるからこれを引用する。

原判決二八枚目表六行目の「指定されては」から同八行目の「指定されて」までを「指定されているところ、本件事故現場は縦断勾配が3.84%であるから一応凍結防止箇所に該当するが、特に凍結防止重点箇所とはされて」と訂正する。

控訴人は、凍結現象の生ずる具体的地点を完全に予想することは技術的に不可能であること、そのうえでなお完全無凍結状態を保持する方策を講ずることを国または地方公共団体に対し求めることは不可能を強いるものである旨主張する。

控訴人の右主張は、公の営造物の設置および管理の瑕疵の問題と右設置管理の任にあたる公務員の私法上、公法上の責任の問題とを、表裏一体の問題として論ずることにより、路面の凍結現象を道路維持管理の瑕疵とみることがいかに非現実的な発想であるかを論証しようとするものであるが、公務員の故意過失等は営造物の設置管理の瑕疵を考える際の重要な要素ではあつても、それを媒介としてのみ右瑕疵の存在が肯定されるものではなく、右瑕疵の有無は当該公営造物の目的、機能、包蔵する危険の性質、程度等にてらし、その供用の過程で生じた被害の救済の必要性、損害の分散の妥当性等をも考慮したより広い見地から決せられるべきものと解されるから、控訴人の右主張は採用できない。<以下、省略>

(黒木美朝 川端浩 清水信之)

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